2016年11月4日

高台避難 命守る行動を/中央大学理工学部都市環境学科海岸・港湾研究室教授 有川太郎氏

--津波とは
 東日本大震災以降、中央防災会議において想定地震が大きく見直されました。見直された想定では、南海トラフの巨大地震は地震の規模は推定でM(マグニチュード)9・1となり、東北地方太平洋沖地震とほぼ同じ大きさです。津波はプレートの破壊によるスベリによって発生しますが、東北地方太平洋沖地震よりも震源が陸地に近く、津波の襲来が早いものと予想されます。例えば、海岸線への1mの高さの津波到達時間は、静岡県、和歌山県、高知県など早いところでは、数分程度といわれています。
 また、広範囲が震度7の揺れに襲われ、建物の倒壊や液状化、家具の転倒などが懸念されます。さらに、大きな揺れが長く続く可能性があり、揺れが収まってから避難するのでは間に合わない場合もあるかもしれません。津波の基本的な性質として、岬の先端では高くなり、また湾内では湾内振動によって何度となく津波が押し寄せるなど、地形によって大きく変わります。その中で、津波の高さは、最大30m超の場所も想定されています。そのため、シミュレーション技術を使って、各地域の津波を詳細に予測し対策を立てておく必要があります。
--構造物の被害と対策
 東北地方太平洋沖地震では、多くの堤防や防波堤、家屋などの建物が流されました。岩手県釜石市の湾口防波堤も半分程度は流されてしまいましたし、浸水は高さ10mを超す場所もあり、そのような場所では、コンクリートでつくられた建物でも流されてしまったものもあります。そして、多くの人が津波で命を失う結果となりました。
 堤防や防波堤なども多く破壊されました。その多くは前・背面の水位差により生じる水平力と越流による背後(陸側)の洗掘が原因です。今後も津波が堤防や防波堤を越えることも十分考えられるとして、津波が乗り越えても粘り強くその効果を発揮できるようにする必要があると、中央防災会議で提言されました。
 堤防等の高さは、原則として1000年程度に一度来襲するような最大規模の高さ(レベル2)に対応するのではなく、百数十年に一度来襲するような高さ(レベル1)の津波に対応することになりました。そこで、現在は、粘り強く効果を発揮するための補強工事が行われています。具体的には盛り土や洗掘対策、杭など粘り強い構造物に改修しています。ただし、それでも、堤防の高さの倍以上ある津波が押し寄せた場合はおそらく倒壊もしくは破壊される可能性が大いにありえると思います。とはいえ、津波は1分当たり1-2mくらいの速度で上昇することが推測されますから、例え最終的に倒壊・破壊しても堤防や防波堤を乗り越えるまでに時間を稼ぐことができ、若干ではありますが避難に余裕を持たせることができます。東北地方太平洋沖地震では、釜石市の湾口防波堤によって浸水を6分遅らせたほか、津波の高さも低減させることができたと考えられます。つまり、避難する時間を稼ぐことができると考えられます。
 一方、私が調査している高知県のとある町では、耐震化されていない建物や空き家もあり、大きな揺れによって倒壊する可能性がある上、液状化発生のリスクも考えられ避難路を塞ぐ可能性も考えられます。今後は避難計画を綿密に立てていく必要があるだろうと考えられます。そのためには、避難シミュレーションなどをうまく活用する必要があるでしょう。
--津波対策について
 堤防や防波堤などを新たにつくると、場合によっては数十年近くかかることもあります。補強対策も数年から10年程度は最低でもかかるのではないでしょうか。そのようなハード対策は時間もお金もかかりますが、これは粛々と行っていくしかありません。一方で、地震はいつ発生するか分からないため、できることから始めておく必要があります。津波から身を守るには、高くて強固な場所に逃げるのが一番重要です。山が近くにある場合には、基本的には山に逃げるのが最も良いでしょう。そのようなことを住民の方々に理解していただくため、しっかりとしたハザードマップをつくることが大事です。
 また、想定を超えたような事象にも対応するため、避難路、避難場所を複数確保したり、さらに津波避難タワーをつくることが重要です。それらは、比較的短時間でできる対策であると考えられます。そのため、沿岸部の各自治体では、東日本大震災以降、津波避難タワーを急ピッチで建設しています。とにかく地震が発生したら、まずは高台への避難など自分の命を守る行動をしてほしいと思います。事前に避難路・場所を家族で確認しておくことも重要です。また、早期避難を促すためにも、観測網の充実も非常に重要です。現在、房総半島沖から根室沖に日本海溝海底地震津波観測網(S-net)、紀伊半島から四国の沖合に地震・津波観測監視システム(DONET)を配備しており、地震・津波を検知し、主要動や津波の到達前に、それらの情報発信を行うことができるようにもなりつつあります。
--合意形成に向けて
 堤防の高さについては、地域ごとに意見が分かれているように思います。ある県の4市町村で津波に関する調査をしたところ、「景観を崩したくない」や「お金がない」という意見がある一方、「最大クラスの堤防がほしい(レベル2対応)」という意見もあります。どちらにしても自治体と住んでいる人との合意形成が大切です。しっかり話し合い、その自治体にとって一番良い対策を行うことが大事になってくると思います。
--津波は日本近海の地震だけではない
 津波は日本近海を震源とした地震だけではありません。かつて、チリで発生した地震によって岩手県田老町(現在は宮古市)などでは、幾度となく津波に襲われ多くの被害が出ています。津波は日本の反対側に位置するチリからジェット機なみの秒速約200mで進んできます。浅くなるごとに速度は落ちるものの、その分津波の高さが増加し、大きなエネルギーで日本に到達します。避難をする時間も長いため、気象庁や自治体の出す情報をもとに避難をするのが良いのではないかと思います。