2016年3月11日

東京大学・政策研究大学院大学教授 家田仁氏に聞く

わが国には老朽化したインフラの維持更新や経済再生に加えて、人口減少、超高齢化の進行といった課題が山積している。こうした中で、震災復興はどうあるべきか。大局的な視点から東日本大震災被災地の復旧・復興の展望を、東京大学・政策研究大学院大学の家田仁教授に、語っていただいた。

--東日本大震災から5年が経過、被災地では復旧・復興事業が進んでいます。現状と課題などを指摘して下さい
 被災地は南北に長く、数県に幅広くまたがっており、それぞれの課題も違います。特に原子力発電所を抱える福島地域と他地域を同列で論ずることには無理があります。
 まず、福島県以外の地域を概観しますと、災害対策基本法、災害救助法など現行法制の枠組みでは、基本的に防災施策、復旧復興施策を基礎自治体が主導して策定し、それを県や国が支援するというシステムになっています。資金的には、全額国の負担で、各市町村が独立して独自に復興計画を立て、それを実行・推進する。個々の復興計画は、優れてはいても極めてローカルなものです。
 そのため、隣接する自治体で大規模商業施設やスポーツ施設が個々に必要なのかといった課題が生まれています。学校、病院などについては、広域的な視点から分散配置することなども含めて、周辺自治体と連携・調整すべきです。
 復興道路を始めとする各種道路、鉄道、港湾などが再建され、より移動しやすくなることを前提に、広域的な連携を図り、個々の計画を微調整する段階に来ています。
--復旧・復興に向け、国の支援は極めて手厚いですね
 阪神・淡路大震災時などに比べると、支援は充実しています。歴史的には、中越地震当時から公的資金による個人への支援、公助する体制が整ってきました。個々人の生活再建に手厚い支援が実施され、東日本大震災においても、その成果が発揮されました。
 東日本大震災では、この5年間で、わが国の1年間のGDPの6%から8%の公的資金が注がれてきた。その比率は、阪神・淡路大震災時で3%程度、関東大震災時では6%程度でした。
 わが国は、その時々の国力に見合った対応をしてきたことが分かります。しかし、国家負担も限界に来ているのではないでしょうか。
 復興は大事ですが、国力以上のことをしすぎた結果、国力の衰退を招くことは避けなければなりません。こうした視点から公助のあり方などを見直すべきでしょう。
--具体的にはどのようなことが望まれますか
 将来の首都直下地震や南海トラフ地震に対応し、国力を維持しつつ復興を図るためには、公助に加えて、自助の制度を充実させていくことが必要です。
 1948年の福井地震を踏まえて、地震力に対する必要壁量、軸組の種類と倍率(壁の強度)などを盛り込んだ建築基準法が50年に制定されました。これが自助を促す枠組みの嚆矢(こうし)です。
 さらに、64年に起きた新潟地震を踏まえて地震保険ができました。惨状を目の当たりにした、当時の田中角栄大蔵大臣が「地震保険が必要だ」と言い出したことをきっかけに制度が整いました。国家財政の破たん、日本の没落を避けるためにも、こうした自助をベースとする新たな仕組みを早急に整える必要があります。
 これまでの災害復旧・復興では自治体も若干資金を負担してきた。先ほどもふれましたが、今回の震災では、資金面では国が全額面倒を見る。国民の税金で賄うという、歴史的に極めてめずらしいことです。しかし、これがある面で自治体のモラルハザードを招きかねない枠組みとなりました。いま、首都直下地震なども見据えて、やはり、少額、極めて少額でよいのですが、自治体が地方債を起債して一部を負担するなどというシステムも検討すべきです。
 さらに、人口減少や高齢化を見据え、都市のコンパクト化などを取り入れるなど、わが国が大局的にどうあるべきかという視点を踏まえた創造的復興計画を練り上げるべきでしょう。
--原発事故を抱える福島県の課題は
 社会学者の開沼博さんが指摘するように、福島問題はステレオタイプ化、スティグマ化しています。「フクシマ」というと負の表象といった烙印が押され、ネガティブなレッテルが貼られています。また、フクシマをサポートする表明をすると、それは原発サポートであって非国民である、というような批判を受けるといったように、非常に政治問題化し、分かりにくいテーマとなっています。
 このように政治問題化していることが、福島の復興を複雑化、遅らせる原因となっています。
 いま、早急に取り組むべきことは、福島県産農産物などの風評被害対策です。他県と同じ品質のものでも、福島産と言うだけで、買いたたかれています。
 しかし、現実は、世界で最も安全な農産物が福島産なのです。米については全数調査しており、他の農産物についても自主検査などが行われ、安全性が確保されています。こうした徹底した検査をしているのは、世界中で福島だけです。
--国民全体で機運を盛り上げる必要があります
 風評被害を払拭し、福島県産農産物などの積極的な購入を拡大させるために、福島フードファンクラブという組織を発足させようという動きが県などを中心に広まっています。会員制組織とし、農産物の購入により、生産者の経済的安定だけでなく、やりがいや生きがいをも確保する運動として、注目しています。
 ぜひ、安倍首相が会員第1号となり、福島県産農産物をもりもり食べて、日本はもとより、世界中の人に福島の安全を積極的にアピールしてほしい。
 東京オリンピック開催までの期間に、福島の風評被害を根絶し、世界に対して福島を売り込んでいくことは、国としても大きなメリットとなります。
--福島再生のポイントをお聞かせ下さい
 福島の復興はまだまだです。いまだに8万人ほどが避難しており、土壌、枯れ草などの除染作業が続いています。最終的に除染で取り除いた土や放射性物質に汚染された廃棄物などは2000万m3-3000万m3に達すると見込まれています。それらが仮置き場に山積みとなっている状況です。
 国家として大英断を下し、一刻も早く中間貯蔵施設に搬送し、本格的な復興を図るべきです。
 福島第一原発周辺の復興に当たっては、避難指示などが出た原発周辺の田村市を始めとする福島12市町村の規模は小さく、人、資金とも欠乏しています。復興に当たっては、全面的に国の責任と、国の権限でやるべきです。