2015年10月30日

インタビュー・群馬大学大学院理工学府教授・広域首都圏防災研究センター長 片田敏孝氏


日本は先進国でありながら自然災害大国でもあります。1951年の伊勢湾台風までは年間数千人人規模で人が亡くなっていました。以降、61年災害対策基本法施行以来、阪神・淡路大震災や東日本大震災以外の災害では死者が概ね100人以下と激減しました。
 しかし、大きな問題が浮上してきました。それは、行政任せの防災対策にシフトしていったため住民自らが主体となって災害について考え、備えることをしなくなったという点です。いわゆる「災害過保護という問題」です。
◇防災教育
 わたしが防災教育をするため初めて岩手県釜石市を訪れたとき、地域住民は防災について行政任せでした。釜石市では過去、幾度となく津波に襲われたため、津波の碑が34基あります。ところが、住民は先人のせっかくの教えを学んでいませんでした。わたしは学校に赴いて子どもたちに「津波はいつか必ずくるよ」と訴えかけました。しかし、「じいちゃんは逃げない」というのです。それは大人たちが子どもたちに「ギネスにも記録される立派な防波堤があるから津波がきても大丈夫」といっているからだというのです。
◇子どもの命守る
 これではまともな地域防災をしているとは言えません。地域社会全体が子どもの防災教育の妨げとなっていたのです。そこで、大人たちに防波堤を越える巨大津波が来たときに「じいちゃんが逃げないと子どもたちの命を奪うことにもなりかねないよ」と語りかけました。「地域の人たちが逃げることを考えないと子どもたちは逃げないよ」とも。
 子どもたちの命を守ることについて、学校を含めた地域全体で防災教育をしていかなくてはいけないのです。その後の東日本大震災では、あまりにも大きな津波であったため釜石でも多くの方が亡くなりました。子どもたちの多くは懸命な避難を重ね、命を守り抜いてくれました。自主的な防災教育が奏功した結果だったと感じています。
◇脅しはダメ
 ここで、間違えてはいけないのは防災教育が脅しの教育になってはいけない、ということです。津波がくるよ、怖いよ、恐ろしいよ、とだけいっても子どもが大人になったときに恐怖心から地元を離れていくだけです。それでは地域は廃れるし、何のための防災教育なのか分からなくなります。普段はとても暮らしやすく良いところだけれど、何十年に1回あるかないかもしれない災害が発生したとき、逃げることが必要であることを教えることが重要だと思います。
 わたしは、群馬県に住んでいるため、海のない生活を送っています。釜石のとても良いところは、海があることの素晴らしさ、恩恵を受けているありがたさを享受できることだと思います。その素晴らしさを大人が子どもたちに伝えつつ、発災時の対応策を教えることが自主的な地域防災につながると考えています。その教え方についても講演会のような一方的なものであってはいけません。もし、お母さんが家具の下敷きになり子どもに「あなただけ逃げなさい」と言われたらどうするか。子どもたちは真剣に考えます。大好きなお母さんを捨てて逃げたくないという気持ちが大きいはずです。
◇誘導が大切
 また、逆に自分が家具の下敷きになったとき、居合わせたお母さんに「逃げて」というか「一緒にいて」というか問いかけます。すると、子どもたちは半べそをかきながらさらに真剣に考えます。そして、最後に一生懸命に考え抜いた子どもたちに対して、わたしは「こんな嫌なこと考えたくないよね。だから家具を固定することは大事だよ」といいます。そうすると、家庭に帰って子どもたちは両親に一生懸命「家具を固定してほしい」と懇願するでしょう。両親も、子どもたちの思いの背景を知って、家具の固定をしようと思います。こういった自分にとって大切な人を取り上げて誘導していくと皆真剣に考え自主的に防災対策に取り組んでいきます。
◇進む高齢化
 一方、三重県尾鷲市の古江地区では、高齢化が進んでいます。そこは山の斜面で下に道路、上に住宅400軒が建ち並んでいて地区全体が土砂災害の危険地帯です。そこで土砂災害のハザードマップを作ることになり、黒が空き家、赤は助けが必要、青が助けに行ける、黄が助けには行けないけれど自分で何とかできる、といったように色分けしました。
◇地域住民自ら
 こういった一連の作業は、行政よりも地域住民がやるからこそより具体的な内容が盛り込めます。例えば、○○さんのお宅は逃げるときに介助が必要だ、ということなど近所だからこそ知り得る情報もたくさんあるのです。介助1つとっても行政が「大丈夫ですか」と聞いても気丈な人は例えダメでも「大丈夫です」と言うでしょう。
 そんな情報はあてにはなりません。地域の人たちが自主的に作ったからこそより詳細な情報をマップに盛り込めるのです。そして、マップからそれぞれの色が入るように防災隣組をつくり、いざというときは組ごとに逃げるようにしました。
 また、避難についての意識を変えるようにしました。悲壮感ただようものではなく、おじいちゃんは一升瓶片手に、おばあちゃんはお茶菓子を持ってみんなで集まるといったイベントのようにしました。
◇災害に強い社会
 いまでは、台風が夜来るというのに朝から「避難所が開かないのか」と市役所に連絡が来るそうです。例え避難情報が出ていなくても隣組が隣の隣組とともに集まれば楽しめるし、命を守ることにもつながります。恐らく行政ではなし得ない自主防災だからできることだと感じます。
 わたしが最後に言いたいのは、技術者も、物理的な安全度を高めるだけではなく防災といった視点を兼ね備えることも必要です。自然災害は技術だけでは到底制御しきれません。災害に強い社会を作り出すためにも、情報を受け取る側への伝え方、いわゆる「コミュニケーションデザイン」という考え方も技術者にとっては重要な要素となってきます。
 技術者にもぜひ、原点に立ち返り「防災とは何か」について、いま一度考えてもらえればいいと思います。
◆強靱な国土へ 最新技術紹介
◇ソイルネイリング工法・三信建設工業/地盤崩壊を防止する地山補強土工法
 ソイルネイリング工法とは、設計手法を含めた技術として、1984年にドイツから導入して以来、わが国の実状に合った技術として発展し、これまでに国内において570件以上、施工面積26万㎡を超える施工実績を有する地山補強土工法です。設計における安定計算は、ネイルによって土塊を擬似構造体と考え、その構造体の内的安定と外的安定をチェックすることにより行います。
 ソイルネイリング工法の特徴は次のとおり。
・地盤そのものを構造体として利用するため、安定性の高い擁壁(抗土圧構造物)を効率的に構築できます。
・地盤の持つ力学的特徴を利用した柔構造の構造物であるため、変形に対する追随性が高く、耐震性能が優れています。
・逆巻き施工が可能であるため、より安全な施工を行うことができます。
・施工中に地盤条件が変化した場合も補強材配置の見直しによる対応が可能です。
・小型機械による施工により、施工時の騒音や振動が少なく、狭隘な場所や急傾斜地における施工が容易です。
・施工目的や周辺環境に対応した表面処理法を選択でき、既存の構造物の補強工法として適用できます。
◇変位抑制型の薬液浸透注入工法「超多点注入工法」・日本基礎技術/理想的な浸透固結体形成
 旧名古屋ターミナルビルの跡地にJR東海が建設中の新ビル「JRゲートタワー」の地下部で、日本基礎技術が開発した「超多点注入工法」が仮受け防護工事に採用されました。新ビルは地下に既設の鉄道函体を抱き込む構造となっているため一時的に函体を仮受け防護する必要があり、仮受け杭打設時の地下水上噴対策、導坑掘削時の土砂崩壊を防ぐ地盤改良として薬液注入が検討されました。鉄道函体直下部の薬液注入は函体の隆起が懸念されたため、面的に注入して相対変位を抑制する「超多点注入工法」が用いられました。
 「超多点注入工法」は、変位抑制型の薬液浸透注入工法で、埋立層や沖積砂層の液状化対策、吸出し防止、止水、基礎補強などに有効な技術です。ゆっくりと少しずつ薬液を注入するポンプを用いて地盤中の多数の吐出口から同時(1ポンプユニット32連)に注入。理想的な浸透固結体が得られるとともに施工効率を大幅に向上させました。構造物直下で施工ができ、ユニット化した専用システムは狭隘個所での施工も可能。さらに「DCIシステム」の変位観測制御を組み合わせれば、注入に伴う変位を24時間監視し変位を管理値以下にするために自動で吐出量の調整ができます。施工実績は140件に達しています。