2015年10月30日

インタビュー・茨城工業高等専門学校長・東京工業大学名誉教授 日下部治氏

わたしが地盤工学会の会長だったときに、東日本大震災が発生しました。地盤に関する災害が各地で多く発生しましたが、わたしは、「技術だけではダメで地盤情報を反映した社会システムの改善を行わなくてはいけない」という1つの結論を出しました。災害から何を学ぶか、そして災害を科学的に技術検証した結果はどうだったのか、こういったものを反映した社会システムを構築していかなくてはいけないのです。それが、わたしにとっては地盤品質判定士制度とGNS(Gross National Safety for natural diasters)です。
◆情報の開示と地盤品質判定士/民間情報の補完へ専門家集団を創設
 日本におけるデータソースは、大きく分けて官と民の2つがあるといえます。官からの情報は公開されているため直接的にみることができ活用することが可能です。一方、民からの情報は個人財産保護などによってほとんど表に出ていません。では民の情報をどうやって補完し技術的に判断するか、そのための専門家集団となる「地盤品質判定士」という資格を、わたしが会長在任中に日本建築学会や土木学会、全国地質業団体連合会などと一緒に創設に向けた議論を開始しました。この資格は主に宅地における地盤災害の防止や軽減を目的に、地盤工学の専門知識と倫理観をもった技術者が地盤の品質を確認し説明する業務を主としています。制度がスタートして今年でようやく3年目となりますが、重要度が社会的に認知され始めています。判定士は個人住宅の判定にも携わるため民の情報も知り得る立場です。例えば、仙台市では先行して切り盛り土の情報を開示しています。地盤工学会では民の情報をどうやって開示していくかについて判定士と連携して取り組むとともに、地盤に関しては訴訟が多いことから複数の弁護士とともに連携し対応しています。
 しかし、地盤品質判定士の制度だけでは不十分で、宅地建物取引や不動産鑑定の団体とも連携する必要があります。現段階では宅地建物取引の際の重要事項説明に地盤の評価に関する項目が明記されていませんし、安全を守り個人の財産を評価・保護する観点から国土交通省が定める不動産鑑定評価基準にも地盤性状は考慮されていません。これら商取引における地盤評価に関するサポート的な役割を果たすのが「地盤品質判定士」であって、情報公開や訴訟、宅地建物取引に係わるためには最低でも1000人の有資格者が誕生することが必要であると考えていますし、それによって実効性が担保されると思います。そういった仕組みを社会システムの中に組み込みたいと考えています。
◆安全を指標化したGNS/都道府県単位で災害リスク算定
 日本のインフラは諸外国に比べコストが高いと政治家の方たちはいいますが、わたしは単純にそうとは思いません。なぜなら、諸外国と比べて日本のインフラは「国土・地形・地質・気象等が違うし提供するサービスも違う」からです。しかし現実には、政策を決定する政治家の判断材料となる脆弱な日本の国土を反映した指標や投資したらどれくらい安全なのかといった指標がないため必要性・重要性を明確に認識しづらくなっています。
 そこで、私は自然災害に対するリスク指標「GNS」を提唱しました。これは、自然災害リスクを定量的に示した防災・減災投資の意志決定者向けの指標で、この土地はどのくらい脆弱でどのくらい投資すれば安全なのかを長期的なステップで見通せるとともに、ハード対策、ソフト対策がどの程度不足しているのかを見極めることができます。
 このシステムは、防災科学研究所や気象庁、内閣府、警察庁などが開示している情報をもとに、(1)地震(2)津波(3)高潮(4)土砂災害(5)火山噴火の5つの自然災害を複合的に捉え災害発生頻度と災害の影響下にある人口の割合を掛けた数量(暴露量指数)と社会・経済の災害に対するハード・ソフト両面における弱さ(脆弱性指数)を掛けることでリスクという指標を都道府県単位で算定する計算システムです。例えば、神奈川県の脆弱性を項目別で捉えると、ハード対策では道路密度や水道老朽化率が全国平均よりも悪い結果になっている一方、耐震化率や防災行政無線は全国平均よりも良いという結果が出ています。また、ソフト対策をみると、医師や病床数が大幅に不足している一方、経済指標は良いという結果が出ています。全国レベルで統一的な基準を設けることによって防災・減災に対する投資について政策決定者が一瞬にしてわかるようになっています。また、自治体では防災の専門家でない人も防災を担当することがよくありますが、この指標を使いさえすれば、対策の方向性を明確にすることが可能です。
 ただし、気象外力、特に大雨に起因する災害は統一的なデータがないため計算式には、現在のところ含まれていません。より正確なリスクを判断するためにも今後、組み入れていく必要があります。現在、2015年版が出ていますが、気候変動や自然災害、新たな情報を投入していくため毎年、更新していく予定です。
◆コスト対安全はイコールではない/安全で持続可能な防災減災対策必要
 どのくらいお金をかければ、どのくらいの安全を確保できるのか。地殻変動、気象変動などを基にした情報を入れ込んでいくと将来的にどこが危ないのかが見通せます。人や産業が脆弱性の高いところから避難するか、あるいは工学的な手法で耐力を高めるのか、そのためのコストがどのくらいなのか、コンセプトがしっかりしていれば計算可能です。しかし、ある事象に対して強い物を作ったから安全であるとは言えませんし、お金を掛けさえすれば安全であるというわけでもありません。安全でかつサステイナブルな防災・減災対策が必要です。
◆強靱な国土へ 最新技術紹介
◇Newスリーブ注入工法・日特建設/薬液注入の進化形
 近年、都市部における基礎・地中構造物を対象とした地盤強化、止水を始め、既設構造物の耐震補強や液状化対策などにおいて薬液注入工事が多用されています。そこで、改良効果と確実性の面から多く採用されてきた「ダブルパッカ工法」に改良を加え、施工の高速化と高品質化を目指した「Newスリーブ注入工法」を新たに開発しました。
 「Newスリーブ注入工法」はシールグラウト方式を採用しており、注入パイプの外形を六角柱状とすることで、シール材に縦方向の放射状クラッキング(6方向)を発生させ、長い浸透注入区間を確実に形成することができます。それにより、(1)薬液の大吐出量による高速注入(2)注入孔数の大幅削減(3)工期短縮(4)低コスト化(5)改良地盤の均質性の確保--を実現し、複雑な地盤にも対応可能となりました。
 本工法は工事目的と地盤条件からさまざま注入材料を選択することができ、溶液型材料を使用した止水工事から液状化対策、懸濁型材料を使用した地盤強化、耐震補強に至るまでさまざまな場面で使用することが可能です。
◇ロータスアンカー工法(PAT.P)・ライト工業/繰返し注入型地山補強土工法
 盛土斜面や崩壊性の地山では周面摩擦抵抗が得られにくいため、太い径の補強体を造成できる中径~太径の補強土工法が多く採用されています。特に鉄道盛土斜面では、機械攪拌混合技術を用いたラディッシュアンカー工法が広く普及しています。
 ロータスアンカー工法は、盛土補強技術の拡張を目的に、ラディッシュアンカー工法の施工が難しい地盤の適用を目指し、鉄道総合技術研究所、複合技術研究所、ライト工業の3者で共同開発した工法です。
 本工法は、注入孔を設けた特殊な注入パイプ「インジェクションパイプ」を使用し、グラウトを繰返し注入することで、削孔径より太い補強体を造成する技術です。従来工法と比較し1.5-2.0倍程度の引き抜き抵抗が得られることを試験で実証しています。
 また、注入時の流量、圧力を管理することで地盤変形(軌道変位)を抑制できることを確認しており、営業線直下でも施工実績があります。既設構造物の耐震性能に関する要求が高まっており、特に施工ヤードに制限が多い鉄道盛土耐震を目的とした施工も増加しています。比較的小型の削孔機を使用するため、仮設足場が軽微であり、狭隘な場所での施工も可能であり、今後さらに件数の増加が見込まれます。