2015年10月30日

インタビュー・一般社団法人日本グラウト協会会長 中森保氏

--大規模地震や局地的大雨など自然災害に対応した地盤工事の動向について
 「東日本大震災で被災した地区の復興は、がれき処分はほぼ完了しているようです。河川堤防や下水処理場の復旧工事は現在大々的に展開されているところです。防潮堤の新設や高台移転に伴う大規模な盛土造成工事については始まっていますが、今後の1、2年がピークになると思われます」
 「これらの工事に伴う地盤改良工事は、盛土や防潮堤の安定確保を目的としたものが多く、施工スピードやコスト面を考慮して主に機械撹拌工法等が採用されています。これらの工事に付随してのグラウト工事はそれほど多くありませんが、掘削を伴う工事や下水道等を新設する工事には薬液注入工事等も活躍する場面がでてくると考えています」
 「むしろ、震災地域以外における液状化対策での薬液注入工法や高圧噴射撹拌工法での工事が今後増加することが考えられます。国は国土強靭化を打ち出しており、そのためにも重要な取り組みと考えられます。特に既設の防潮堤については、地震発生時の安定性の検討を行った自治体により液状化対策工法が発注されています。これについては既設防潮堤下部や近傍での施工となるため、施工機械の小さい薬液注入工法や高圧噴射撹拌工法の特長が生かされると考えています。空港の液状化対策も順次進んでおります。夜間の限られた時間での施工や改良範囲を特定の位置から行うといった点が薬液注入工法の特長とリンクしており、活躍の大きな場所となっています。当協会会員会社は様々な液状化対策技術を保有しており、これらの技術を有効に生かして活躍しています」
--近年多発している局地的大雨への対策は
 「短時間で1年分の降雨量がごく小さい地域で観測されるなど近年の局地的大雨(通称・ゲリラ豪雨)は予測することが難しいものです。基本的には雨水処理施設等のインフラ整備が第一となるのでしょうが、過去にない時間当たりの降雨量に併せての整備計画は過大になることが予想されます。そのような場合のリスク管理として造成宅地の安全性向上、重要構造物や地下施設への水の流入対策といったものを国の指導で行うことが必要ではないでしょうか。そのことが『国土強靭化政策』にもつながると考えています。宅地造成の崩落防止に直接注入工事が関わることは少ないと思いますが、仮設利用などでは出番があると思います」
 「また、薬液注入工事は止水性を確保することが目的になることが多いですから、地下水位の急上昇による出水等の直接的な影響も懸念しています。施工や工事終了後の安全性を確保するためにはゲリラ豪雨によるリスクをしっかりと理解し、発注者や注文者に確実に説明できる技術者が必要となるのではないでしょうか」
--既存ストックの延命化について
 「これからの時代は、古いものを壊して新しく造り替えるスクラップ・アンド・ビルドではなく、既存ストックの延命化を図ることで、国土強靱化とともに費用対効果の高い財政投資、環境保全、低炭素化社会などの課題に応えられると考えます」
--協会の対応は
 「協会としてはこれらの工事に対して質の高い仕事を提供できるようなバックアップできる協会活動を心がけております。具体的には協会の技術資格の有効活用や継続教育での技術継承を考えています。これにより、グラウト技術の信頼性と技術継承を継続的に行って対応していきたいと考えています」
--人材、機材・資材の不足について
 「東日本大震災後では、人材不足・資機材の不足が東北地方を中心に生じていました。現在は資材・機材については特別不足な状態ではないようです。人材については、建設業全体としては比較的仕事が多いこともあり、現時点では人手不足の傾向はあるようです。特に除染作業が人による作業が中心でどうしても人海戦術的なこともある点からゼネコン社員や作業員が不足している傾向です。そのため、退職者等を再雇用したり、建設業以外からも作業員を集めたりといったことが続いています」
 「本協会会員各社では薬液注入工事を中心とした地盤改良工事を主体としていますが、建設業全体に比べると人材不足の傾向は少ないと思われます。薬液注入工事は比較的街中の仕事が多く、建設業の中では従事者が若い傾向にあることも人材が確保できている要因かもしれません。ただし、本業界も長期的に見れば長い不況時代に雇用が進まなかった点や新卒の建設業離れもあり、十分な人材を確保できているとは言い難い状態です。この点については建設業全体の問題であり、若い層や女性技術者・技能者の取り込みが今後の課題と考えています」
 「資機材については、超大型の工事が発注された場合に一時的に機械不足となる工法等はありますが、注入工事全体としては機械不足や資材不足といったことは特には生じていません。大型機械を用いる地盤改良工事は使用機械が足らない状態が震災以来続いていましたが、ここにきて落ち着いてきていると感じています」
--2015年度に計画している貴協会の主要事業について
 「協会事業では、地盤の安定と地下水の流動化防止に最適な注入工法に関する『調査・研究』と『その成果の普及啓蒙』『技術向上』等を計画し、実施しています」
--貴協会の社会的な役割と貢献とは
 「グラウト関連工事の活躍の場は年々多岐にわたってきていますが、協会員が長年培ったグラウト技術を利用・応用していくことで大きな社会貢献が期待できると思っております。本年度も効率・低価格のみの追求にとどまることなく質の高い仕事を提供できる協会活動を心がけ、グラウト技術の信頼性と技術継承を継続的に行える教育の場を設け有資格者の地位向上を目指し、会員企業も切磋琢磨することで、政府が目指す国土強靭化やインフラ整備に貢献していきます」
--発注者に期待すること
 「グラウト技術の専門性を明確にした発注方式、つまり地盤改良工事を的確に施工し高い安全性と品質を確保するためには、グラウトの専門性を明確にした発注方式が最適と考えています」
 「なお、入札参加資格申請では『グラウト工事』の区分もあり、グラウトを専門としない業者の参入に歯止めがかかり高い安全性と品質が確保されます」
 「グラウトの専門技術を有する会員企業の活用も期待します。グラウト工事に40年以上の実績があり、社会の信頼性が高い当協会会員の活用をぜひ、お願いしたいです」
◆2015年度の主要事業
(1)調査研究事業
 (1)国土技術政策総合研究所からのジェットグラウトの指針等作成要望への対応
 近年、高圧噴射撹拌工法は、本設での利用例が増えており、本設時の利用における品質確保のため、同工法施工・技術指針の策定について、「本設対応高圧噴射撹拌工法施工・技術指針策定準備委員会」において検討しております。
 (2)流量計の認定事業に関する事業
 注入データ処理能力の向上とデータの信頼性のため、認定流量計のデータ処理ができるバージョンを協会が協会認定の形で提供できるよう検討しております。
(2)普及啓蒙事業
 グラウト工事に必要な専門知識を広く関係者に周知し理解を得るため、次の事業を実施しております。
 (1)『2015年度版 設計資料・積算資料』の改訂
 1989年発刊の「薬液注入工法の設計・施工指針」を時代の変化に対応させるため、毎年度「設計資料」および「積算資料」を改訂発行し、補完しております。
 (2)技術説明会の開催
 97年度より毎年開催している技術説明会を、2015年度も全国の主要都市6カ所(広島、大阪、新潟、名古屋、東京、仙台)で開催します。
 説明会では、薬液注入工法、耐久グラウト注入工法施工指針、ジェットグラウト工法について説明します。14年度までの参加は、9300人です。
 (3)設立40年記念誌の発行
 当協会は15年度に設立40周年を迎えます(1976年4月社団法人設立)。この節目の年にあたり、30周年記念誌以降の協会の取り組みを広く関係者に周知し理解を得るため、また、この内容を後世に継承するため、本年6月に設立40周年記念誌を発行し、6月8日の通常総会・同懇親会で配布しました。
 編集にあたっては、薬液注入工法の耐久性、大震災の復旧・復興支援、一般社団法人移行、国土強靱化への取り組み等についてまとめました。
(3)技術向上事業
 グラウト技術の信頼性の向上・維持を図るための事業
 (1)登録グラウト基幹技能者更新講習
 当該技能者の能力・知識の維持向上を図るため、15年度(第2回)更新講習を通信教育と試験により実施し、受講者113人、修了者113人となっています。
 (2)登録グラウト基幹技能者認定講習
 当該技能者を育成するため、15年度(第7回)認定講習を講義12時間と試験1時間により実施しました。受講者は東京と大阪で合計67人と再受験4人の計71人となりました。修了者は東京と大阪で合計67人となります。
 (3)2級土木施工管理技術(薬液注入)検定試験取得支援講習事業
 当該講習は1999年度から継続実施しており、2015年度も東京、名古屋で実施します。