2015年9月1日

SIPディレクター 京都大学防災研究所教授 中島正愛氏に聞く

 2014年から始まった国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP、内閣府)」では、10項目の課題について、5年後の社会実装を視野に入れて、産学官のメンバーからなるチームで研究開発に取り組んでいる。その一つ、「レジリエントな防災・減災機能の強化」は、「予測」「予防」「対応」の3つを柱に、最先端の科学技術を集結した研究開発が進められている。社会実装を確かなものにする出口戦略の一つとして、全国に散在する中核大学を拠点に、その地域における災害発生直後の被害予測とそれに続く被害実態把握を刻々とオーバーラップさせながら、災害に迅速に対応するシステムの構築などが考えられている。このプログラムのディレクターを務める京都大学防災研究所教授で、日本建築学会会長の中島正愛氏に意図や今後の展開などを聞いた。
 東日本大震災という巨大な災害が現実のものとなって、耐震工学や防災技術にパラダイムシフトが起きた。SIPの「レジリエントな防災・減災機能の強化」プログラムもそれを教訓にしている。
 「南海トラフ地震、首都直下地震など、とてつもない災害が起こっても不思議ではないことを国民は意識し始めています。それが起きたとき、敗北主義に陥りたくはないけれど、近未来の技術だけでは社会を無傷に留める完全防御はできません。レジリエンスという言葉には、被害を最小化して一刻も早い回復を目指す、という意味が込められています」
 プログラムでは防災・減災を研究する際に3つの柱を設定した。災害を察知してその正体を知る「予測」、災害に負けない都市・インフラを整備する「予防」、災害発生時に被害を最小限に食い止める「対応」だ。
 「『予測』では、地震はいつ起こるのか、豪雨はいつ降るのかなど、予測の高度化に資するさまざまな技術開発を進めます。予測精度が上がるほど、対応の準備がしやすくなります。例えばSIPが直接指揮しているものの一つとして『レーダー開発』があります。ゲリラ豪雨の雲をキャッチして、いつごろ、どの場所で、どの程度の降雨量があるかを予測するものです。これは、河川管理に活用できるなど、土木関係者の関心が極めて高いところです。津波の予測も研究の対象で、これまで陸上の地震計のデータを頼りにしていたのを、海底に地震計と津波計を設置することで、地震時に起こる津波の高さを測定できるようになります」
 「さらにSIPでは、津波によってどこがどれだけ浸水するかを予測できる技術開発も進めています。津波警報が出れば即逃げればいいと言いますが、高齢者や入院患者など社会的弱者は簡単には逃げられません。その意味においても、どこまで浸水するかを正確に知る予測技術はとても大事です。また最先端の科学技術を駆使すればそれが実現できるのです」
 2つ目の「予防」は、大規模実証実験などに基づく耐震性の強化。
 「ここでは液状化対策を中心に進めます。液状化対策の方法はいくつも開発されているのですが、港湾にある石油コンビナート施設などでは、事業を続けながら液状化対策工事を実施することが課題です。建設系の科学技術を駆使して開発しなければなりませんし、産業界からの貢献を期待しています」
 この予測と予防で災害をできるだけ防ぐけれども、無傷にとどめることはできないので、傷があってもそれを浅くするという発想を基に、3つ目の「対応」について研究開発する。
 「対応でまず大切なのが、『準リアルタイム被害予測』です。ここでいう予測は、災害発生を予測するのとは別に、災害直後に当該地域での被害を想定するということです。例えば、緊急地震速報が出たときに、自分の住んでいるまちには何秒後にどんな揺れが起こり、どのくらいの家が被害を受け、どの道路が通れなくなるかなど、想定されるさまざまな災害情報をいち早く獲得しそれを共有するわけです。特に自治体の首長さんにとって、この被害予測を知っているのと知らないのとでは、災害直後の対応に天と地ほどの差があります」
 「さらに大事なのは『準リアルタイム被害実態把握』です。災害発生後の状況をさまざまな方法で収集しますが、これも人工衛星や無人飛行機などによる画像、SNS(ツイッターなどソーシャル・ネットワーク・サービス)といった技術を組み合わせることで実現できます」
 SIPでは、災害予測に災害実態を重ね合わせて、災害情報の高精度化を図るとともに、それらを使いこなせるシステムをつくることを、出口戦略の一つとして考えている。
 「事前に持っている被害予測に、刻々と変わる実態を重ねて修正をしていきます。災害情報がリアルタイムで増えていけば、自治体の対応も一層効果的です。ほかにも携帯などの通信環境がだめになったときにも、マイクロバスやヘリコプターで必要機器を現地に運んで、応急通信環境をつくる技術開発にも取り組んでいます。『皮一枚』でも情報をつなげることはとても大切です」
 「こうしたシステムが構築されたら、次はそれを使いこなす教育が問題です。せっかくの素晴らしいシステムができても、それが使えなければまったく意味がありません。また、同じ自然災害でも地域によって被害の様相は随分違います。地域性(ローカリティー)を踏まえて対応を考えなければなりません。そのような観点から、全国に共通するベースのシステムはSIPが開発して、そのシステムを自治体他に提供しますが、それに加えて、各自治体には個別のデータを加えていってもらいます。例えば建物データは個人情報に属しますが自治体はそれを把握していますし、避難所、消防、病院など災害時に必要になる施設の情報も加えることが可能です。そして作りあげたシステムを使いこなせるように、日ごろからの教育、訓練が必要になります。このシステムは、提供する側はできるだけ分かりやすいものを目指し、また、誰でもが使える簡便なものであることが大事です」
 こうしたシステムをいつでも起動できるようにするため、SIPでは活動拠点を地方の中核大学に置くことを考えている。
 「新しい情報を常時集めて、『準リアルタイム被害予測』や『準リアルタイム被害実態把握』を束ねるシステムをいつでも動かせるように、専門家のいる大学を拠点にするのが良いだろうと思っています。自治体を始め、企業、ライフラインや鉄道などの公共事業体、そして市民が拠点大学に集まって、日常的に情報を共有することも、いざというときのために大切です。東日本大震災以降、自校の防災を第一義にした防災センターのような部署を設置している大学がかなりあります。すでにコアはありますから、モデル校を示して水平展開をしていくのがいいと思います」
 本プロジェクトでは、5年後の確実な社会実装を視野にした技術開発が進められており、企業や地域社会がプロジェクトの成果を活用することで、国内産業の競争力確保にもつなげ、さらに開発技術を海外諸国に移転することも視野に入れている。