2014年3月20日

インフラは人間と共存する生き物 第99代土木学会会長 山本卓朗氏


 わが国では高度経済成長期を中心に、土木・建築の両分野において大量の建物や土木構造物が供給された。それらの建築・土木ストックが更新期を迎えている。2020年に東京でオリンピックが開催されるのを受け、選手や外国人の来日に備え競技施設や宿泊施設の新設・改修が進むほか、インフラの再整備が加速するなど都市・街の再生に向けてさまざまな取り組みが行われている。「造り直すことも必要」と説く第99代土木学会会長・山本卓朗氏に話を聞いた。

 
--街づくりの視点で考えること
 街というものは、生きているし成長し続けるもので時代の先端を受け入れていくものだと思います。そしてインフラというものも街とともに生きる存在であって、街とともに変化していかなければならないと思います。しかし、インフラも年をとっていきます。それを長い間役に立たせるためには、日ごろの健康管理が重要ではないでしょうか。ある意味、インフラは私たちと共存する生き物であるといえます。
 インフラの維持管理には、鉄道や上水道、下水道など分野ごとに取り組み方がありますが、新しい時代に合った形に再生する、つまり強化するだけではなく街にマッチさせることも視野に入れる必要があります。
 高度経済成長期以降、建設ラッシュに沸いた時代において「維持管理」という言葉は日陰の存在として地味なところで推移していたものの、現在では老朽化が進み、ようやく本腰を入れて取り組む人たちが出てきて力が入ってきた分野であるといえるでしょう。
 今後、老朽化し陳腐化した建造物を再生させるに当たっては、構造物の補強にとどめることなく末永い環境への調和と地域活性化への寄与を新しい視点として加えるべきでしょう。

--インフラなどの利活用・再生策について

 これからのインフラには、「利活用」と「再生」の2つの方向性があると思います。
 「利活用」については、まず使うものと捨てるものを分ける必要があります。人口減少のなかで不要なものを捨てる努力も重要となってくるでしょう。高度経済成長期に建てられた産物が人口流動や人口減少などの要因によって、現在ではあまり活用されなくなりメンテナンス代などの経費だけかさむなどといった事態になっているところもあります。あまり使われなくなった以上、その建造物は不要と見なし処分する必要があります。
 一方、「再生」についていえば、もしその建造物が必要ならば、老朽化した建物などを、その時代のニーズにあった形に造り替えていく必要があります。かつて私は、今から40年以上前に建てられた社宅に住んでいましたが、洗濯は風呂場などで行っていました。しかし、電気洗濯機が家庭に普及して、いざ購入しようとすると置く場所がない。そのような建物をいつまでも維持管理し続けても限界があるので、今のニーズに合ったものに「造り替える」イコール「再生」していかないと住む人がいなくなり無用の長物となってしまいます。

--オリンピックとインフラ


 今から50年前、東京オリンピックが開催された時代は、高度経済成長の真っただ中であり、世界に追い付け追い越せとがむしゃらに高速道路などのインフラが建設されました。ひっ迫する需要に対応すべく作っていることから環境面や構造面、デザイン面においても見劣りするものが多いといえます。
 そこで、次なる東京オリンピック開催をビッグチャンスととらえ、1964年前後に建設された建造物をどのように再利用、再生するか将来ビジョンとして検討するよいタイミングといえます。たとえば、日本橋の上に高速道路が走っていますが、お江戸日本橋再生のために地下化するには5000億円、高速道路会社1社で負担する額にしてはあまりにも大きすぎます。しかし、周辺開発と組み合わせ民間活力を利用する手法を取り入れれば大した額ではないと思います。
 オリンピック開催時には多くの外国人が日本にやってきますが、豊かなインフラの中で生活しているヨーロッパの人が日本を見て、歩道も道も狭い、河やお堀はヘドロで臭気が漂っているなどの醜悪な風景を目の当たりにしたら「日本はこんなものか」と思われかねません。
 以前、安倍首相が「美しい日本」というキャッチフレーズを掲げ政策を展開していましたが、私たちも「美しい日本」を掲げ将来像を描き6年の間に具体的な実行計画を作成し、少なくても着工していかなくてはいけないでしょう。

--将来を見据えたインフラ整備と再生のあり方

 失われた20年を過ごすうちに私たちは、目の前のインフラにばかり意識が集中して20年-30年後の未来像、将来ビジョンが描けていないのではないでしょうか。街全体、そして分野ごとのインフラの明確な将来ビジョンを描いてから整備を進めなくてはいけないと思います。
 ゼネコンは、国内で大型工事が終わりを迎えていると判断し海外に事業を展開しつつあります。しかし、維持管理と新設の間に改良(再生)事業があるのだからまだまだ市場はたくさんあります。たとえば、道路のバイパスの整備は新設に匹敵する大規模な改良工事です。鉄道の骨格は第2次世界大戦前に出来上がり、在来線は「再生の歴史」といえますが、私が携わってきた東京駅の改良工事も古いものを生かしながら新しいものに作り変えてきました。
 必要なものは造り、改良・再生できるものは目的にそって造り直し、維持できるものは長寿命化を図っていく。多様な対応がこれからのインフラに対して大変大切なことだと思います。