2013年1月23日

〝レジリエンス〟とは何か? レジリエンス協会会長 林春男氏に聞く

林春男 会長

 東日本大震災以降、安全・安心に対する意識が高まり、防災・減災に理解を示す機運が高まっている。だが、それはともすればハードかソフトか、コンクリートか人か、という選択的な議論になりがちで、安全・安心の「あるべき社会像」という議論には到達していない。京都大学教授の林春男レジリエンス協会会長は、大震災以前より、防災的観点から「レジリエンスな社会」を提唱し続けてきた。「レジリエンス」とは何か、どう向き合えば良いかを聞いた。

--レジリエンスとは何か

 「レジリエンスを最もイメージしやすいのは、『形状記憶合金』や『形状記憶シャツ』だ。外部から力が加わるとくしゃくしゃになるが、外部からの力が抜ければ元の形に戻る。復元する力があるということだ。心理学においても同じで、人間はストレスを与えられると押しつぶされそうになるが、そこから立ち直れる。自然災害の分野でも、地震や風水害などの外力が社会にのしかかってきて、一部は壊れるが、元に戻ることができる。これがレジリエンス」
 「大事なことは、『自立・分散・協調』である。それぞれの要素が自衛・自立できていること、それらを分散して危険を散らして一つが壊されても全体として生き残っていること、そして、それらが連携して結びついていること。たとえば高速道路網はこれに当たる」

--防災でのレジリエンスは

 「防災の基本は、ミチゲーション(被害抑止、減災)とプリペアネス(被害軽減、事前準備)と言われていた。どちらも事前の備えのことだが、備えに2種類あるという意味で、被害を出さないための抑止と、被害が出ても軽減するという考え方。ところが、2001年のアメリカの同時多発テロ以降、予測できないことが起こるという前提で、壊れた後の対処が必要との考え方が広がり、抑止も緩和も復元も含めて『レジリエンス』と呼ばれるようになった」
 「レジリエンスを『力』に分解すると、予防する力と、回復する力に分けられる。いま予防と呼ばれているのは、構造物を造り、被害抑止することを指している。しかし、予防には本来、意識啓発や避難計画作成なども含まれる。これを日本ではおそらく予防と言わず、『ソフト』と呼んでいる。いままでの日本における防災の特徴は構造物による被害抑止だけを主たる対応方策と考えてきた」
 「さらに大事なことは、災害が起きた後にどうするかを考えなければならないという点だ。ソフトの中には、構造物ではない予防の部分と、起きた時のために準備という2つの側面があることを理解する必要がある」

--構造物やソフト、発生後のことまでをすべて含めた考え方がレジリエンスとすれば、それをどう実践していくか

 「レジリエンスの考え方の背景には、『事業継続』という概念がある。事業継続と言っても、いまの『BCP』は計画を書く、何日分の備蓄をするというかなり矮小化された議論になっている。一方で相変わらず、ハードを強くしようと言って、公共投資の話になっている面もある。両方とも、レジリエンスにおけるエレメント(構成要素)ではあるが、要素の一つでしかない。もっと広く、国や自治体、会社などが本来、果たさなければならない役割をどんな状況になっても継続できるか、という問いに応えられる能力がレジリエンスだ」
 「災害や危機が起きれば、被害が出てしまう。それが機能低下だ。レジリエンスをモデル化した図で言えば、三角形の部分が組織のぜい弱性を表しており、機能低下の幅と期間の長さの両方を短くして、三角形の面積を小さくするのが、レジリエンスの向上になる。いまは、被害抑止は建設系、復旧スピードは総務系というように分かれていて、一緒になっていない。何を壊さないか、何は壊れても仕方がないと考えるかというように、構造物の構築と復旧のあり方を総合的に同時に考える必要がある」

--現在、「強靱化」という言葉も使われているが

 「強靱化は、もともとはレジリエンスと同じ意味だったのだろうが、いまはロバスト(頑強性)の意味で構造物による被害抑止という概念になっているように感じる。『粘り強い』というのも、構造物が一瞬で崩壊しないようにという構造物による機能低下抑止の部分だけの考え方だ」
--三角形の面積を小さくするにはどうすれば良いか
 「壊れてしまうことを前提にすること。基幹的な施設の強度を高めて壊れないようにするという『予防力』を上げることは、レジリエンスを高める一つの構成要素だが、それだけではレジリエンスではない。日本は、構造物による被害抑止という予防力はものすごく高い。だが、その想定を外力が超えてしまう。その時にどう対応するかを考える必要がある」

--東日本大震災以降、減災の考え方が広がっているものの、先に構造物を造り、
その上で壊れたらどうするかを考えているように感じるが
 「最悪の方法と言っても過言ではない。73年に大規模地震特別措置法ができ、地震防災という概念が強まった。このモデルをいまも延々と推し進めている。構造物による予防力は、地震や台風、水害などハザードごとにしか効果がない。でも世の中には、さまざまなリスクがある。地震に対する予防力があっても、インフルエンザには効かない。同時多発テロ以降、新しい脅威、新しいリスクに備える必要がでてきた。SARSや新型インフルエンザ、サイバーテロもある。構造物がいくら頑張っても対応できない」

--しかし、すべてを予防することはできないが

 「予防には、想定を超えた外力には対応できないという問題と、予想できないハザードが発生するという二重の問題がある。きりがない。ハザードごとの予防力は、必ずどこかに限界がある。カバーできない部分が出てくる。そこで、大事なのが復元力だ。予防力と復元力をベストミックスすることがレジリエンスのポイントになる」

--リスクマネジメントとは異なるのか

 「リスクマネジメントは、地震や水害、インフルエンザ、テロなどさまざまなリスクの大きさを評価し、その被害の大きさを考え、(財源的な)資源も考慮しながら最適な予防方法を考えることまで。レジリエンスを向上させるための大事な手法の一つではある。さらに、起きてしまったものの秩序をもう一度回復するというクライシスマネジメントも必要になる。この2つをパッケージ化したのがレジリエンスだ」

--両方を最適化するために必要なことは

 「同じ分野の専門家だけで集まって研究していては絶対に駄目。マルチハザード(さまざまなリスク)を評価できること、重大なリスクに対する適切な予防策を実施できること、どんな種類の危機に対しても対応できる一元的な危機対応体制の確立という3つがポイントになる。さらに、状況の変化に応じてリスクを再評価して、予防策などに反映することも大事だ」
 「これを各組織で取り組む必要がある。まずは政府として、レジリエンスの向上をしなければならない。マルチリスクを評価して、適切な予防策を実施、どんな危機にも対応できる体制を確立する。そして自治体、各企業も同様の取り組みを進める必要がある。各組織単位にとって、それぞれリスクは違う」

--レジリエンスの向上への課題は

 「まずレジリエンスを高めることが、学際的(研究が複数の学問分野にかかわること)な課題という認識を持たなければならない。土木だけでも建築だけでもない。予防と復旧の全体最適を考えることができる専門家、マルチハザードの評価ができる専門家を、育成しなければならない。重要なリスク評価の結果を適切な予防策に転換できる能力を持っている人も、そして危機対応従事者の育成も必要。この3つのバランスがなければ、レジリエンスは向上しない」

--レジリエンスは防災分野だけの話か

 「自分の毎日の生活を考えれば良い。健康リスクは年齢とともに高くなる。若いころは資金的リスクが高い。人間関係のリスクもある。それぞれのリスクに対して、自然に予防法を考え、どうしようもなくなった時のことも考えている。人間はレジリエンスな生き物であり、個人の生活そのものだ」